船釣りをしてみたいけど船酔いが怖い、初めての船釣りで船酔いをしてしまいトラウマになってしまったという人も多いと思います。
今回はそんな船酔いの予防や対策について、現役の医師であり船医としてもご活躍されている内山崇医師にお伺いしてきました。
この記事の監修者:内山崇 医師
大阪市生まれ。福井大学卒業後、福井県立病院、福井大学医学部附属病院、公立丹南病院を経て、現在は福井厚生病院救急総合診療科所属。医師3年目から船医業務にも従事。書籍「ひとりぼっちの船医奮闘録(羊土社)」を執筆。
船酔いはなぜ起こるのか
船酔いとは、船が揺れて気分が悪くなること。
いわゆる乗り物酔いの一種で、船に乗る人の多くが直面するであろう問題です。
釣りSNS アングラーズにて行ったアンケートでは、船釣りをする人のうち、毎回船酔いする人が12%、たまに船酔いをする人が35%。
半数近くの釣り人が船酔いで悩んでいることがわかりました。
では、その船酔いはどのようにして起こるのでしょうか。
従来では、平衡感覚を調整する内耳の三半規管や耳石器が過剰な加速刺激を受けて船酔いが発生する「内耳過剰刺激説」が有力視されていました。
しかし、近年では今までの経験や予測などと違う揺れ方をし、船酔いが発生する「感覚混乱説」「神経ミスマッチ説」も有力となっています。
内山医師:船酔いについては、まだまだ把握されていないことも多いですが、今のところは感覚混乱説、神経ミスマッチ説が有力といわれています。脳が想像している揺れ方と実際の揺れ方にミスマッチが起こることで、脳が情報を処理できなくなり、自律神経が乱れて、船酔い特有の体調不良が起こるというわけです。
船酔いの症状
船酔いというと、真っ先に思い浮かぶのが嘔吐ではないでしょうか。
しかし、船酔いには前兆として起こる症状があります。
前兆として起こるのが頭痛やあくび。
揺れが大きくなければ前兆で治ることもあるようですが、揺れが大きくなると顔面蒼白、冷や汗などが発生し、吐き気が生じます。
最終的には消化器系の症状が発生し、嘔吐が起こります。
内山医師:自律神経が乱れ、嘔吐中枢が刺激されると嘔吐します。そのほかにも、自律神経症状が起こって血圧が変動したり、よだれが出たり、消化器症状が出たりなど、さまざまな症状が起こるのも特徴です。
船酔いの原因
では、どのようなことが船酔いを引き起こすトリガーとなるのでしょうか。
アンケートで多かった回答は以下のとおりです。
※なお、アンケートは複数回答可で行っています。
・寝不足(55.3%)
・仕掛けを作ったりエサをつけたりするとき(42.3%)
・ガソリンや漁具、オキアミ、他人の食事などの臭い(20.9%)
・釣り場で船が止まると酔う(18.3%)
・魚を釣針から外したり〆ているときに酔う(15.9%)
・長時間船に乗っていると酔う(15.9%)
・竿先を集中してみていると酔う(11.4%)
そのほか多くの回答がありましたが、回答者のほぼ半数が挙げたのが寝不足。
次に仕掛けやエサ付けなどで一点を集中してみている時でした。
早朝に出船する釣り船に乗る際には、深夜に自宅を出発するため、寝ずに乗船することも多いはず。
そのようなときに船酔いした経験がある人も多いでしょう。
内山医師:寝不足を含め、体調不良時には船酔いが起こりやすいです。二日酔い、空腹状態も船酔いを発生しやすくします。また、細かな作業を行うことも船酔いを発生させる原因です。釣りでは難しい場合もあるかもしれませんが、なるべく水平線を見るように。スマホをいじったり、本を読んだりするなど、近くを見るのは避けたほうがいいでしょう。
そのほかには、ガソリンや漁具、オキアミ、他人の食事などの臭いで酔うとの回答もありました。
船の船尾付近に座ると、排気ガスの臭いで酔ってしまう人も少なくないでしょう。
また、外洋に出ると当日に風が強くなくても、前日に風が強ければウネリが残り、船酔いが起こってしまうこともあります。
内山医師:船の燃料などの臭いも船酔いを誘発する原因といわれています。船釣りの場合は座席選びも大事で、船の種類や形状にもよりますが、船酔いを避けるためには揺れが少なく、排気ガスなども避けられる船の中央付近(胴の間)を選ぶのがいいでしょう。
船酔いしやすい人の特徴
以下の人は船酔いしやすい可能性があるため、より注意が必要です。
・三半規管が弱い人
・子ども
・女性
釣り人の間でもよく耳にすることがある三半規管が弱い人は、特に船酔いが起こりやすいといわれています。
三半規管が未発達なだけでなく、船に乗った経験も少なく、どのように船が揺れるか予測しにくい子どもも神経ミスマッチによる船酔いが発生しやすいようです。
お子様との釣行を楽しみたいときには、より念入りに船酔い対策を行なっておくことが重要でしょう。
内山医師:そのほか、男性よりも女性のほうが船酔いしやすいという研究データもあります。また、妊娠中や月経中など、女性ホルモンのバランスが崩れやすいときにも、船酔いが起こりやすいといわれています。
船酔い対策は?プロが船酔いしない方法を伝授
〜乗船前〜
船酔いを防ぐためには、乗船前に対策を行っておくことが重要です。
乗船前に行いたい対策を乗船の前日、当日に分けてピックアップするので、チェックしておきましょう。
<乗船の前日>
・十分な睡眠を取る
・深酒を避ける
・脂質や油分の多い食事を控える
<乗船の当日>
・酔い止めを飲む
・適度に食事を摂る
・締め付けが強い服装を避ける
内山医師:睡眠はもちろん大事ですが、空腹だと低血糖で酔いやすくなります。かといって満腹や胃もたれを起こすような食事は船酔いに繋がってしまうので注意が必要です。
釣りをするためにはどうしても避けられないこともありますが、前日にしっかりと寝る、二日酔いになるほどお酒を飲まない、空腹と満腹を避けて適度に食事を摂るなど、防げることを徹底して船に乗るようにしましょう。
意外と盲点になっているのが服装。
タイトな服を着ると船酔いしやすくなるようなので、少しゆったりとした服を着ることも船酔いを防ぐために効果的でしょう。
アンケートでは、酔い止めバンドを着用するとの回答もありました。
酔い止めバンドとはシーバンドとも呼ばれるアイテムで、プラスチックの突起が手首に当たるようにできています。
手首には乗り物酔いに効果があるとされる内関(ないかん)というツボがあり、そのツボをプラスチックの突起が刺激して酔い止めの症状を抑えるという仕組みです。
内山医師:私が初めて船医として乗船したときに結構船酔いしてしまいました。そのときに船員からシーバンドを渡されました。エビデンスがあるわけではないですが、こういったアイテムを持っておくのもいいかもしれません。
〜乗船中〜
船酔いを防ぐためには、いくつか乗船中に気をつけたいことがあります。
具体的にどのようなことに気をつければいいのかチェックしておきましょう。
・なるべく遠くを眺める
・外気に当たる
・揺れにくい船の中央付近(胴の間)に座る
・スマホをいじらない
・サングラスを着用する
釣りをしているとエサをつけたり、仕掛けを交換したりなど、近くを見ることが多いのも事実。
難しいかもしれませんが、手元を見て細かな作業を行った後には、なるべく遠くを見るなどの工夫をするのがいいでしょう。
状況によってはキャビン内に留まらないといけない場合もありますが、できる限り外の空気を吸うことも効果的。
その際には船の進行方向を眺められるように、前を向いて座ることも船酔いを避けるために重要です。
また、船は構造上、船首(ミヨシ)付近が揺れやすく、船の中央(胴の間)と船尾(トモ)付近が揺れにくい特徴があります。
ただし、船尾付近は船酔いの原因となる排気ガスの臭いが発生しやすいのも注意点。
船首や船尾は隣に人がいなくて釣りがしやすいですが、船酔いを防ぐためには、船の中心に近くて揺れにくい胴の間に釣り座を構えるのがいいでしょう。
アンケート結果を見ると、乗船中の船酔い対策としてできるだけ手元を見ず遠くを見る、サングラスを着用するなどの回答がありました。
中には、炭酸飲料やカフェイン入りの飲料を飲むとの回答もありましたが、これにはやや注意が必要かもしれません。
内山医師:研究では、炭酸飲料が乗り物酔いを引き起こす原因になるといわれています。また、カフェインが船酔いを防ぐとの文献もありますし、生姜やタンパク質が効果的との発表もあります。しかし、それを否定する文献も見受けられます。いわゆるプラシーボ効果で、「これで酔わない」みたいなお守り的なものだと思って考えるのがいいかもしれません。
船酔いしてしまったら
いろいろな対策を講じても、船酔いしてしまうこともあります。
一度船酔いしてしまうと復活するのに時間がかかり、そのまま釣りの時間が終了、そんな経験をお持ちの人も多いでしょう。
しかし、船酔いしてもいくつかできることがあります。
具体的にどのようなことができるのかチェックしておきましょう。
・我慢しないで吐いてしまう
・横になって安静にする
・一旦寝てしまう
・背中に冷たい水を流す
アンケートでも、吐く、横になる、寝るなどの回答が多数。
一部には背中に冷たい水を流すといった回答もありましたが、ある文献によるとこれは冷水によって交感神経を刺激し、船酔いを抑えるのに効果があるとのこと。
また、梅干しを食べるなどの独自の策を取っている人もいて、酔ってからでも「これなら効く」と信じられるものがあるといいのかもしれません。
内山医師:船医時代には、ひどい船酔いした人に対して点滴をすることがありました。しかし、釣り船で点滴するのは現実的ではありません。また、酔ってしまってから酔い止めを飲むと吐いて効果を得られない可能性が高いので、なるべく酔わないように対策をしておくことが重要でしょう。
酔うかもしれないという不安が船酔いを誘発することも
船に乗ると「うわ、酔ってしまいそう」「今日はなんか酔いそうだな」そんなときもあるでしょう。
そのように酔うかもしれないという不安が船酔いを誘発することがあります。
内山医師:酔うかもしれないなと思っている人は、必ずといっていいほど酔う印象があります。不安が募りやすい人も船酔いしやすい印象です。
船に乗ると陸に戻るのは難しく、その不安感が募って船酔いをしてしまうこともあるようです。
アングラーズで行ったアンケートでは、船酔い対策として、「自分は船酔いしない」と言い聞かせるとの回答が13.2%もありました。
酔ってしまうという不安を取り除くのは難しいと思いますが、「自分は酔わない」と自己暗示することも重要でしょう。
また、魚を釣れば船酔いが良くなるといった釣り人らしい回答もありました。
魚がバシバシと釣れたら、船酔いしていたことを忘れてしまう場合もあるようなので、意識次第で船酔いを防げるかもしれません。
船酔いは慣れることで克服できる場合も
一度船酔いしたら、もう船には乗りたくないなと思ってしまいますよね。
しかし、船酔いは慣れることで克服できる場合もあります。
船酔いのメカニズムである、感覚混乱説、神経ミスマッチ説をもととすると、実際の揺れと予測した揺れのミスマッチが起こらなくなれば船酔いしにくくなると考えられます。
内山医師:子どものころからシーソーやブランコのように、揺れる遊具で遊んでいた子どもは乗り物酔いしにくいという文献があります。揺れる遊具で遊んだり、船に乗ったりすることを長期的に反復して行えば、船酔いしにくくなるでしょう。また、子どもだけでなく、大人でも揺れに慣れれば船酔いしにくくなると考えられます。
釣り人の間でも、船に乗り始めた頃は船酔いしたけど、今は全くしなくなったといった声も多数聞きます。
乗船時間が短い船や波やウネリの影響を受けにくい内湾の船を利用して徐々に慣らし、苦手意識を弱めていきましょう。
船酔いを繰り返す場合は外来を受診しよう
何度船に乗っても船酔いを繰り返してしまう場合には、外来を受診するのがおすすめです。
乗り物酔いは、加速度病や動揺病とも呼ばれ、耳の病気の一種といわれています。
クリニックの中には、ほかに原因がないか検査を行ってくれたり、乗り物酔いを軽減するリハビリを教えてくれたりすることもあるようです。
ただの船酔いだからと思わず、あまりにもひどい場合には外来を受診し、船酔い対策をしておきましょう。
内山医師:なんでも診てくれる内科のクリニックや、耳鼻科を受診するのがいいでしょう。病院で処方される酔い止めは市販のものよりも船酔いに効く成分が多く含まれているので、市販の酔い止めが効きにくいと感じる人も外来を受診するのがおすすめです。
船酔いを避けて存分に釣りを楽しもう!
しっかりと対策をして船酔いを避ければ、船釣りを存分に楽しめます。
それでも不安な人は、まずは短時間かつ港から近くで楽しめるLTアジやシロギスなどから始めるのがいいでしょう。
たくさん釣れたら船酔いのこともすっかりと忘れてしまい、船釣りの魅力にハマってしまうこと間違いありませんよ!
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